戦没者追悼平和祈念館についての声明

厚生省社会・援護局長殿

1994年11月23日
日本長老教会靖国問題対策委員会

 政府は1995年12月31日までに、戦没者追悼平和祈念館を九段会館敷地内に建設することにし、建設着工に取り掛かろうとしておりま す。しかし、この祈念館に関しては以下に列挙するような多くの問題点を抱えております。これらの問題点を克服し計画の根本的見直しが行われるまで、着工の 一時中止を要求いたします。

1。「戦没者追悼平和祈念館(案)」との名称変更が矛盾を深めています。

 15年前、日本遺族会が厚生省に「戦没者遺児記念館」建設を持ちかけたのが館建設の発端で、その構想は同会の戦争史観を基本に立てられた ものです。父子二代にわたる犠牲を強いた国家はそれなりの始末をつけろという圧力に厚生省が屈したたのでしょうか。名称変更によっても、遺児への慰謝のみ を目的とした初期構想に変更が見られません。

 館建設とその目的・内容が明らかにされて以来、広範な国民の批判を受けることとなりましたが、それは自国の戦没者と遺族だけを視野に入れ た貧弱な厚生省の行政に対する国民の憤りの現れでもあり、政府部内でさえも厚生省の国際感覚を批判する声が外務省などから上がっている状況です。

2。建設趣旨に沿わない展示室計画です。

 建設趣旨は、「先の大戦により300 万人余りの方々の生命が失われ、また国民全体が困難な生活を強いられたという事実さえ知らない者が増えており、先の大戦で亡くなられた方々を悼む気持が日 々薄れつつある」のを憂え、戦没者を追悼し、「日本国民の変わらぬ平和への願いを内外に訴えかける象徴」となるような恒久平和実現を祈念するのだとされて います。

 そして展示計画案によると、常設展示フロアー面積1,900 平米中、アジアに関する展示は「日本占領下の中国と東南アジア」と題し僅か30平米しか割当てておらず、一方、連合軍の「占領下の国民生活」と題する展示 には510 平米も割り当てています。趣旨からいうなら、両者を全く同等に扱い、恒久平和すなわち戦争否定を訴えねばならぬ筈です。現状計画のままでは、連合国の占領 批判を植え付け、日本軍の侵略行為が後景に退き、1800万人とも2000万人とも言われる非戦闘員の死が知らされぬものとなってしまいます。

3。建設計画は、非民主的な過程で行われ、計画は一面的で偏向しています。

 建設の総予算額は約123 億円、巨額の税金を使うのにもかかわらず、厚生省の私的諮問委員会が非公開で計画案を練ってきました。日本遺族会主導のこの委員会答申は、同遺族会の主 義・主張を大きく取り入れたものになっています。日本遺族会は、先の戦争は自衛戦争であって、戦没者は祖国のために命を捧げた英霊だとの姿勢を一貫して崩 さず、靖国神社の国営化、公式参拝実現推進の中心的存在であり続けています。

 最近、日本政府も先の大戦での日本軍の侵略行為を認め始めてきおり、広範な国民を代表する委員会を設け、審議経過を公開し続けつつ計画の練り名を直しを要求します。

4。日本遺族会と厚生省との癒着が、問題解決を困難にしています。

 厚生省は、植民地からの引揚げ・戦地からの復員、戦没者名簿整理なども所掌事務として行っていました。しかし、日本遺族会の「戦没者遺児 記念館」建設計画に対しては、単なる遺家族対策の一つとして処理すべき事柄どうかを、公正な立場で吟味すべきではないかと思われます。政府・民間が挙げて 対処すべきであったと考えます。

 遺家族対策と戦没者追悼と恒久平和達成の国家意志表明とを一括処理するために、記念館的なものを建てようとするところに無理があり、問題をこじらせています。これらを分離して行政全体で個々に是非を議論すべきであると思います。

5。日本遺族会への運営委託は第二の靖国神社への道に通じます。

 靖国神社の国営化、公式参拝への道が閉ざされている状況下での祈念館運営の日本遺族会委託は、同館を靖国神社的性格にさせてしまうおそれがありはしないでしょうか。

 祈念館の主な事業は(1) 展示(2) 情報提供、研修・研究支援(3) 資料収集、保存とあり、このうち展示施設機能として常設展示室・企画展示室があります。そして建物自体は人が神社仏閣に祈りを捧げる格好を模した異様な 58メートルの建物であり、エントランスホールは慰霊堂として位置づけられています。展示された戦没者遺品の前では厳粛な気持ちを起こさせ、館を立ち去る 人の心に残されるものは、恒久平和の決意ではなく、殉国の精神の高揚ではないでしょうか。特に、企画展示室は、十分注意しなければならぬと考えられます。 常設展示室には批判を受けない無難な展示物を展示し、企画展示室には日本遺族会企画、あるいは同会推薦の団体企画の展示物を展示する可能性があり、より一 層靖国神社的効果を狙うことになりましょう。

6。侵略戦争を反省し、アジア諸国への謝罪の視点が欠落してます。

 細川護煕元首相の「侵略戦争」発言に、日本遺族会は怒りに満ちた声明文を出しました。その中で「大東亜戦争は国家、国民の生命と財産を護 るための自衛戦争であった」「英霊冒涜のこの発言は、一国の総理として他国に類を見ない極めて軽率な言辞であり、その見識を疑わざるを得ない」「われわれ 戦没者遺族は、断じて、これを容認することはできない」などと表明しています。このような会であれば、恒久平和へ運動、アジア侵略の謝罪を表明する企画が 欠落するのは当然で、その欠落の指摘を容認しないでしょう。

 日本長老教会は、25年前の靖国神社法案国会提以前から、靖国問題対策委員会を設置し、以後一連の靖国問題にキリスト教信仰の立場で検 討・発言・行動を繰り返してきました。戦没者と遺家族の問題は、戦前の天皇制国家が生み出し、戦後の民主制国家が引き継いだ難問であり、その解決に責任を もって当らねばならぬ事柄であることは認めます。しかし、戦後に引き継いだ問題は他に山積しており、アジア諸国の戦後補償要求もその一つです。祈念館問題 はこれらとのからみで解決せねばならず、問題の処理を誤ると更に問題を抱え込むことになります。また、問題解決に当たっては民主国家憲法理念を前提とすべ きは当然です。遺家族とてもこの制約は免れません。戦前の古証文をかざす日本遺族会を説得するのが政府の役目であると考えます。

 正義・公正な行政を委ねられた責任を果たされるよう期待いたします。