テロ対策特措法の拡大解釈は止めてください

内閣総理大臣 小泉純一郎殿

2002年12月19日
日本長老教会 「ヤスクニと平和」委員会  委員長 遠藤 潔

 テロ対策特措法に基づき海上自衛隊艦船がインド洋に派遣されてから、政府は2回目の延長を決めました。今回は護衛艦の交代という名目で、最新鋭護衛鑑のイージス艦の派遣です。これは単なる交代ではなく、イージス艦は通常の護衛艦の4,5隻分の能力をもっているので、戦力の一層の増強を意味します。これまでその派遣が見送られていた理由は、その投入が日本の集団的自衛権の行使につながると政府自身も判断してきたからです。
 テロ対策特措法の提案理由には「対応措置の実施は武力による威嚇又は武力の行使に当たるものであってはならないこと」があげられています。その基本方針は「憲法の範囲内でできる限りの支援、協力を行う」ことであり、協力支援活動の実施内容は「燃料の補給・輸送、人員・物品の輸送、医療など」となっています。ミサイルの監視・迎撃などは、もちろん任務外です。
 しかしながら、この特措法は、同時多発テロ時にアーミテージ米国国務副長官から日本政府が「ショウ・ザ・フラッグ」と態度を鮮明にすることを要求され、その要求に答えて提案されたものであります。米国の報復戦争と日米安保条約との脈略が曖昧なまま関係づけられ、提案理由に国連決議まで持ち出され、テロ非難の国際的な世論に乗じて、十分な論議を経ないまま短日時に、時限立法として国会を通過したのがテロ対策特措法だったのです。
 私たちがイージス艦の派遣に反対するのは、これまでの護衛艦の派遣ならばよいということを意味しません。国際テロ対策の国連決議と米国の報復戦争とは、目的・手段・対策において食い違っている部分があります。問題なのは、これを同一視し、しかもこれに日米安保条約を絡ませて自衛隊を派遣したことです。したがって、私たちが反対する理由は次の点にあります。イージス艦の派遣は、問題の上にさらに問題を重ね、ついには特措法の拡大解釈への道をつけるものである。
 現在、インド洋上に遊弋している海上自衛隊の艦船はテロ対策の任務を帯びていますが、極めて防衛能力の高いイージス艦は何を監視するのですか。崩壊に近い現在のアルカイダやタリバンに、航空機やミサイルを飛ばす能力があるでしょうか。テロ組織は高性能な兵器を持たないので、テロ戦術をとるのです。テロ集団に対してイージス艦を当てること自体、軍事学的には非能率な軍事力の投入であり、軍事合理性を無視した決定ではないでしょうか。
 イージス艦の派遣には、それが《他の護衛艦より居住性に優れ、自衛隊員の志気を向上させ、隊員の健康に留意したものである》との理由がつけられています。もしテロ組織に加担する国家が現れたと仮定し、その国がミサイルを発射するとしたら、通常の護衛艦を狙わず、イージス艦か空母を狙うでしょう。イージス艦は居住性に優れているとしても、隊員の危険性は非常に高いものなのです。自衛官の人命より、米軍の意向に沿うことを重視する政治的な決定であったと思われます。ブッシュ米大統領はじめ米国高官が、派遣の決定に感謝や評価のメッセージを日本政府に寄せてきているではありませんか。
 そもそも国際的なテロ対策は、テロが国際的な犯罪であるので、国際的な捜査、取り調べ、犯人の特定、国際法の積み重ねによる法的制裁に向かおうとしています。テロの本質は無法であって、法秩序での押さえ込みには限界があるにしても、国際的な包囲網によって撲滅を目指しているのです。
 世界の趨勢は、無法行為も侵略行為も、国連憲章の集団安全保障体制的な構想による処理を目指しています。一国による復仇行為が新たな紛争を呼び起こし、復仇は国連憲章と両立しないことが繰り返し言われてきました。「国は、武力行使を伴う復仇行為を慎む義務を負う」(1970年国連総会)。各国が持っている個別的自衛権も集団的自衛権も緊急権の行使としてのみ認められ、いずれも国連の安全保障委員会の紛争処理に委ねることになっています。まして国際テロは戦争ではないのですから、自衛権の名での武力行使は、解決への道筋をスタートから踏み違えているのです。テロは国家・国民に大きな被害を与えるものですが、武力による侵略行為ではありません。自衛権は国家・国民の存亡の危機に際してのみ発動が認められる緊急権であり、テロ行為に対しての自衛権は認められておりません。
 現在、イラク制裁・フセイン政権打倒に向けた米国の単独行動主義が世界世論の非難を浴びています。自衛隊のイージス艦派遣は、米軍のイージス艦のペルシャ湾移動による戦力の穴埋めを狙ったものであると言われています。テロ対策の名を借りて対イラク戦争協力に乗り出す第一歩を踏み出したことになり、米国の単独行動主義に同調する日本は国際世論の非難を浴びつつあります。憲法第9条をもつ日本にとって、国際社会で名誉ある地位を占めようとする国是を放棄する派遣決定です。
 かつて日本は軍部の独走を許して対米戦争に突入し、今回は米軍の独走を許して対イラク戦争協力に突入しようとしています。残念ながら、歴史から反省材料を読みとるどころか、歴史から戦争の始め方―武装集団の暴走・政府の追認・反戦運動の弾圧・扇動された国民の衝動的な戦争肯定・戦争決定・軍の派遣・国家総動員体制・憲法停止・軍部主導の国策遂行―を、お手本として学びとろうしているとしか思えません。こんな歴史を繰り返す舵取りをするのが政治家の役目なのでしょうか。靖国神社社頭で「不戦を誓った」首相は、「武力行使はしないとは誓わなかった」とでも言うのでしょうか。イージス艦の使命は軍事力システムの中の武力行使の一環として最高位に位置づけられているのです。
 日本長老教会は、「戦争に関する公式見解」において日本国憲法の平和主義が、従来の正義の戦争論を克服したものであることを明らかにしました。この見解は《平和を脅かすものには、国家間の戦争をもって対処するのではなく、国際的な調停・制裁をもって対処する》という国連憲章に見られる精神に沿うものでもあります。調停・制裁処置は国連決議、経済制裁、外交的な努力、武力行使の順を追って国連の決議にしたがって遂行されます。武力行使は一国によるものではなく、平和維持軍、多国籍軍等によるものでなければなりません。そして武力行使への参加要請は、 《各国の憲法に干渉してまでするものではない》と規定されているのです。

 

イージス艦について
●水上戦闘鑑 Cruiser
 かつてアメリカ海軍が建造した排水量一万トン・クラスの原子力巡洋艦は1990年代に入ると次第に姿を消し、代わって防空・対空戦闘の中核となるイージス艦が登場した。
 本来この鑑種は大型航空母艦を敵の航空機、ミサイルから守る役割を持って建造されている。
 またイギリス、フランス、旧ソ連が保有していた従来型の巡洋艦はすべて今世紀中に解体されるはずである。 なお、イージスとは、SPY-1 フェーズド・アレイ(多素子)レーダーと連動する対空システムを指す。
 現在アメリカ海軍は、タイコンデロガ級イージス巡洋艦の充実に力を注ぎ、27隻を完成させた。
 海上自衛隊も非常に高価なイージス艦こんごう級4隻の建造を決定し、すでに3隻を配備している。
 しかし空母を保有してはいない海自において、こんごう級4隻が、”何を守ろうとしているのか”という疑問は消えていない。
 またアメリカ、日本以外はイージス・システムそのものを必要と考えていないようである。
 なおこれらの巡洋艦はミサイルとその発射システムを艦内(上甲板の下部)に立てた形で収納しているが、これはVLS(垂直発射装置)と呼ばれている。
 【典型的な巡洋艦】
こんごう級イージス護衛艦の要目
排水量・7250トン、全長210メートル
主機関・ガスタービン4基、出力・10万馬力
速力・30ノット、乗員300名
VLS スタンダードSAM アスロック :SAM 鑑対空ミサイル
SUM 2基
ハープーンSSM 8基 :SSM 地対地ミサイル
127ミリ単装砲1門
    ----------- 現代兵器事典 三野正洋、深川孝行著 朝日ソノラマ 1998年--------
 

●戦域弾道ミサイル防御用スタンダード
 イージス艦が装備するSPY-1 フェーズド・アレイ・レーダーは、スカッド戦域弾道ミサイルの発射を洋上から探知することができる。しかし、現用のスタンダードSM-2鑑対空ミサイルは、対航空機・対鑑ミサイル撃墜用なので打ち落とせない。 
 そこで弾道ミサイルを捕捉できる能力を組み込んだSM-2ブロックⅣAの開発が始められた。ブロックⅣAは、現在テスト段階にあり、改良ポイントは、信管・炸薬・弾体などの能力アップと、なによりマッハ6を超える速度で飛翔する弾道ミサイルを精密に捕捉するため、レーダー探知に加えて、ミサイル本体に目玉のように飛び出した画像赤外線シーカーが取り付けられている。射程距離はブースターの強化により150kmに達し、迎撃高度は大気圏内に限られる。ミサイルの全長は6.45m、直径0.53m。
 さらにこのSM-2ブロックⅣAを弾道ミサイルの阻止専用に発展させようとするのが、イージスLEAPで、TMD(戦域ミサイル防衛)システムの一部に組み込まれている。LEAP(軽量大気圏外投射体)は、小型ロケットと高性能赤外線センサーを備えた誘導弾頭で、スタンダードSAMにより大気圏外に運ばれ、弾道飛翔中のミサイルに直接衝突して破壊する防空ミサイルである。また、大気圏外での迎撃を目標とするスタンダードSM-3弾頭の開発も検討されている。
 --------世界の最新兵器カタログ 空軍・海軍編 日本兵器研究会・編 アリアドネ企画 1998年------

 

●弾道ミサイル迎撃技術
イージス戦闘システム(Aegis battle system)は、14~18個目標の同時処理能力と数百km の覆域をもつ多機能フェーズドアレイ・レーダーAN/SPY-1D を中心に、戦闘全般および射撃指揮用コンピューター、多連装ミサイル垂直発射管で構成。目標の探知、脅威評価、攻撃武器選定、複数ミサイル発射誘導はすべて自動化されている。迎撃兵器は垂直発射菅から発射し、迎撃高度約160kmで射程300~400km、2段固体ロケットのスタンダードミサイル-3(SM-3 Standard Missile-3) が運搬する重量18kg の外気圏軽量弾(LEAP Lightweight Exo-Atoospheric Projectile) で、SM-3から秒速4kmで放出され、内蔵する固体ロケットでさらに加速して目標を直撃する。
          ----------imidas 2001 集英社



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