改憲の動きに対する声明

2007年1月9日
日本長老教会ヤスクニと平和委員会

 私たち日本長老教会ヤスクニと平和委員会は、政府与党によって推進されている憲法改正についての動きが以下の理由で「改悪」に向けたものであると 受けとめる。そして私たちキリスト教会にとって、思想・良心の自由の根幹となる人権の保障・信教の自由および平和の理念を脅かすものとして、この改憲の動 きに反対する。

1. 憲法の位置付けの変容
立憲主義の精神とは、憲法を遵守し擁護する義務を国民にではなく為政者に課することを憲法の目的とするものである。国家権力が行動できる範囲を限定し制限 することによって、権力を持たない国民の権利を保障するのである。現憲法(日本国憲法)もそのような憲法の役割を明確に表している1
これに対して自民党から発表されている新憲法草案では、義務を国家権力に課すのではなく、義務を国民に求めるものへと憲法の理念を根本的に変容させようとする意図を見て取ることができる2。それは憲法の目的を「公権力を縛る」ことから「国民を支配する」ことへと変えようとする試みであり、これこそ立憲主義の精神に敵対する行為であり、現憲法の主権在民の原則を無にするものである。
憲法改正草案に留まらず教育基本法の改正案においても、教育行政における活動範囲の制限を意図する法律から、学校や生徒へ義務を課する法律へと変容させよ うとする同じ意図を見て取ることができる。共謀罪についての刑法の改正も、国家権力が国民をより容易に縛り、支配することを意図するものである。このよう な動きによって国家権力が行使される範囲はいよいよ広がり、人権の保障はより弱まることとなるのは必至である。

2. 政教分離原則の空洞化
大日本帝国憲法においても「信教の自由」は授与されていたが、その自由は臣民としての義務に背かない上での自由に限定されていた。そして「国家神道は宗教 ではなく国家儀礼である」との主張によって、神社参拝を行わない自由は例外なく認められず、神社参拝が一律に強要された。それによって思想・良心の自由も 完全に空文となり、国家からの干渉に甘んじる結果となった。
この長い苦汁の経験を通して、現憲法20条3項の「政教分離原則」は生み出され、「信教の自由」においては国家と宗教を厳格に分離させることが必須であるとされるに至った。
しかし新憲法草案においては、国家や地方公共団体は「社会的儀礼又は習俗的行為の範囲」内であれば、宗教に関わったことにはならないと認めている3。 「社会的儀礼又は習俗的行為の範囲」について具体的に述べず、あいまいな表現に留めることによって、いかようにもその範囲を広げ、やがては、今現に首相や 国会議員によって強行されている靖国神社参拝を、あるいは大嘗祭に代表される皇室行事をも日本の習俗として合憲化しようとする意図を見て取ることができ る。
新憲法草案の政教分離原則の緩和は、政教分離原則の空文化につながるものであり、やがては国家権力による信仰や思想・良心の介入に道を開き、私たちに偶像礼拝を強いるものとなることを危惧する。

3. 軍国主義化への危惧
現憲法の徹底した平和主義は、武力を行使することによる平和の構築を目指す平和主義とは全く相容れないものである。特に現憲法の2章「戦争の放棄」を新憲 法草案では「安全保障」に変え、自衛軍の規定を明記しているところから見ても、新憲法草案の目指しているものは軍備と武力による安全であり、それは現憲法 の平和理念を完全に廃棄したものであると受けとめざるをえない。
現憲法の掲げる平和主義は、聖書が示している「敵意を廃棄する4」という理念と合致するものである。新憲法草案の掲げる武力による 平和は、かえって敵意を煽り、混乱と紛争を拡大させるものであって、軍国主義化に向けたものである。これは、平和をつくり出す者として召されている私たち キリスト者にとって、とうてい受け入れられないものである。

 以上の理由によって、戦前戦中に日本の教会が犯した侵略戦争へ荷担した誤りを繰り返さないために、私たち日本長老教会はこの改憲に向けた動きに対して大いなる危惧を抱き、反対し続けることを宣言する。


1 現憲法99条「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」

2 憲法前文における憲法の位置付け
現憲法「そもそも国政は,国民の厳粛な信託によるものであつて,その権威は国民に由来し,その権力は国民の代表者がこれを行使し,その福利は国民がこれを 享受する。これは人類普遍の原理であり,この憲法は,かかる原理に基くものである。われらは,これに反する一切の憲法,法令及び詔勅を排除する。」
新憲法草案
「日本国民は、帰属する国や社会を愛情と責任感と気概をもって自ら支え守る責務を共有し、…(中略)
日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に願い、他国とともにその実現のため、協力し合う。(中略)
日本国民は、自然との共生を信条に、自国のみならずかけがえのない地球の環境を守るため、力を尽くす。」

3 新憲法草案20条3項「国及び公共団体は、社会的儀礼又は習俗的行為の範囲を超える宗教教育その他の宗教的活動であって、宗教的意義を有し、特定の宗教に対する援助、助長若しくは促進又は圧迫若しくは干渉となるようなものを行ってはならない。」

4 エペソ人への手紙2章15節