米国大統領および米国国民へのメッセージ

 9月11日に発生した同時多発テロ事件によって、甚大な人的・物的・精神的な被害に遭われた米国国民に対し、心からなるお見舞いを申し上げます。米国の尊厳を深く傷つけられたことに大きな怒りを覚えておられることも十分に拝察しております。遺族の方々だけでなく米国国民が、 嘆きと悲しみと怒りの中にあっても、なお必死にそこから立ち上がる努力をされているニュースを見まして、米国国民の強さと偉さを感じました。 
 今回の事件は、いかなる政治・文化・体制の相違、それに起因する歴史的な経緯を持ち出しても、事件そのものを容認も弁護もできるものではありません。対立・闘争の解決手段には、自ずと限界があり、その限界を超えてその解決手段に訴えることは、人間として許される筈のものではないからです。「全体の益にならない」自由行動は、真の自由から出たものとは断じてみなされません。ですから西側諸国の首脳が、この事件は自由と民主主義社会への挑戦であると言われたことに、このような意味で全く同感いたします。
 
 しかしながら、貴国が公式に今回の事件を「新しい戦争」と即座に規定し、報復戦争を宣言し、世界に向けて共同戦線を構えつつあることに、私たちは深く憂慮し、異議申し立てをいたします。一般に政治的な決断には大なり小なり誤りを含むものですが、そうした誤りを指摘するというレベルの議論・意見を申し上げているのではありません。決断そのものが持つ根本的な問題性を、あえて指摘いたします。
 今回の同時多発テロ事件は、それが周到に準備された上で決行されたものであることを、誰も否定することができません。それが可能であった事実は、その準備を底辺で支えているものが継続的に根強く存在していたことを物語っております。それは根深い反米感情を抱いている民衆の存在です。一部の扇動者が、一時の反米感情を抱いた民衆を踊らせた結果などではありません。今回の報復攻撃の対象を「見えざる敵」と称しておりますが、それは民衆の心の奥底いところに潜んでいる反米感情を指して言われているのでありましたら、その通りです。ですから、 武力で扇動者とみなしている人物と組織とを潰すことは、「復讐心」を満足させるのかも知れませんが、それが最終的な解決につながらないのです。
 文化が人間生活を便利で快適にし、また豊かにしました。人間の限りない欲望を満たすために考えられ、生み出されたものの先頭にアメリカ文化と称されるものが存在し、それが世界を牽引しているのが現状です。それを喜んで受容し、あるいはそれに引きずられ、共鳴する民衆もあれば、それを否定する民衆もあります。アメリカ文化がすべて肯定され、推進されるべきではないことは、あらゆる分野の社会的な現象で逆襲を受けていることから明らかです。今回の同時多発テロ事件は、アメリカ文化を拒否することから生じる「反米感情」の逆襲とみなされております。報復するといっている側は、実は逆襲を受けたのです。そのまた報復は、報復の連鎖、破壊と混乱を増大させるだけです。 
 復讐は神に属する事柄と言われています。それは人間の抱く復讐心を満足させる形で遂行されないで、別な形で行われることではないでしょうか。世界の人民が、復讐の連鎖を断ち切って、人類の共生を考えようと決意し連帯して、政治家の尻を叩くことが、神の見えざる復讐の一つの姿ではないでしょうか。
 一時的な米国国民感情によって政治の意志決定をすることは、民主主義の基本理念に反し、上に述べました民主主義の裏目・弱点をさらけ出すことになってしまいます。今や世界の唯一の超大国となった米国のとるべき態度は、世界の秩序を維持するために有している権威と権力とを、予想される国際テロの防止策にだけ行使することです。報復戦争を主導することは、米国の権威を失墜し、権力の乱用につながります。世界秩序の中心の権威が失墜したら、この世界は混沌の状態に陥り、それこそテロの思うつぼにはまってしまうことになるでしょう。現状はすでにテロリストの筋書き通りに動いているように見えます。
 近代国家は法治国家とか理性国家とか言われているように、人間の感情を理性で抑えて秩序を保つことが前提としてあります。暴力的な権力者の恣意に身を委ねず、法に身を委ねることが、長い間人類が辛くて苦しい体験を通し、歴史の反省として得られたあり方です。人間社会から、リンチ(私刑)を追放してきたのが、政治家の大きな役割でした。報復でななく制裁の道を歩んできております。にもかかわらず、今回報復攻撃をするのは、国際的なリンチではありませんか。国際連盟や国際連合という国際平和への積み重ねを、一挙に覆すことになります。国連を通して外交交渉による説得、非軍事的制裁、軍事的制裁という手順を追うことが世界的な合意ではないですか。
 米国の識者は、9月11日は人類の歴史にとって分水嶺になる、 とまで言い始めております。それが既成の秩序体系をかなぐり捨て、近代の法体系をうち破っても、米国の報復行為をあらかじめ是認するというのなら、それこそ大問題でしょう。人類が営々として築き上げてきた秩序体系を野蛮な無法状態に逆戻りさせてしまっても、国家意志を貫くというのでしょうか。
 今回の報復攻撃には、 それが実施されるなら、 数多くの非戦闘員が殺されてゆく可能性が非常に高いことが予想されます。報復は流された血と等量の血を流すことでは収まりません。どこの国の政治家も戦争に勇み立っておりますが、大多数の民衆は脅えているのです。政治家は野心からの戦争を決定しますが、戦って死ぬのは敵も味方も問わず民衆なのです。
 米国国民および大統領が、 報復戦争を断念し、自由と民主主義を守ろうとする世界の国々の協力が得られるような理性的かつ合法的な手段で、粘り強く国際テロ組織の撲滅と反米意識を解消させるような政治を実行されるよう忠告し、念願しております。

 2001年9月26日

日本長老教会「ヤスクニと平和」委員会
委員長  遠藤 潔
外委員  一  同
 



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