特定秘密保護法の廃止を求めます

内閣総理大臣 安倍晋三殿

 特定秘密保護法案が審議された国家安全保障に関する特別委員会にて、重大な問題が山のように指摘されたにもかかわらず、あなたはこの法案を強行に押し通されました。しかも衆参両院の同特別委員会での採択と言われているものは、怒号が飛び交い、委員長の発言でさえも何一つ聞き取れず、同特別委員会の速記録においても「発言する者多く、議場騒然、聴取不能」と記されるのみで、本当に採決に至ったのか、議場にいた者ですらも判別不能の状態で「強行採決」の名にも値しないことを思います。このような強硬手段をもって「採決された」とするのは議会制民主主義の理念を踏みにじるものであり、先の特別委員会での審議は「審議未了、廃案」とするのが正当です。どうぞこのような審議不十分な状態で同法律施行を行うことなく、再審議の上、果敢に廃案とする勇気を持っていただきたく思います。
 政府が機密を持つことが明確な制限なく運用されると、市民の知る権利を阻害するという重大な問題が生じます。機密情報保護は市民の知る権利を阻まないよう細心の注意をもって充分な規制と制限がかけられなければなりません。しかし同法律にはそのような制限規定は無いに等しく、国政調査権を持つ国会議員に対してですら情報の開示が阻まれる可能性が大です。行政の長が秘密に指定すれば国政調査権を持つ国会議員に対して情報が制限されることは、日本国憲法41条が国会を国権の最高機関と定めていることに反することであり、国民主権、三権分立の憲法理念の解体を意味します。
 また同法にある「適正評価制度」は市民のプライバシーを調査の対象とし、思想信条、支持政党にまで調査対象を拡大する恐れがあります。現に2010年に警視庁公安部の調査資料が流出したことによって判明した公安警察の調査実態は、イスラム教徒であるという理由だけで、不特定多数の身上調査を行うという人権侵害も甚だしい差別に基づく調査でした。12月5日に同特別委員会でこのことを指摘された古屋圭司国家公安委員長の答弁では、公益と秩序の維持のためであれば、どんな人権侵害も許される、と言わんばかりでした。このような無法の調査を何一つ規制せず、罰則も加えず、市民の知る権利だけを規制するのは、憲法が保障する人権に対する侵害であり、到底認めることが出来ません。
 日本国憲法66条の2に、内閣を構成する総理大臣・国務大臣は、文民によって統制されなければならないというシビリアン・コントロールの原則が記されています。しかし肝心の情報が行政から恣意的に隠されれば、文民統制は全く機能しなくなります。日本政府が秘密国家の道を歩まず、民主化を進めるために重要なことは、国民に対する情報公開を保証すること、情報公開法を充実させることです。2013年6月に採択された「ツワネ原則」は、各国政府が秘密を保護することは、国民の知る権利を保証するしかたでのみ許されることを明記しました。各国政府が「ツワネ原則(注)」に基づいて情報公開を進めようとしている中で、日本が同法制定によって秘密国家の道を進むのは、民主化の道を努力して歩もうとする国際的な流れに逆行するものです。
 以上の理由で、特定秘密保護法の廃止を切に求めます。
 
2014年2月4日
日本長老教会社会委員会
委員長 星出卓也
 
(注)「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則」の通称。アメリカの財団の呼びかけによって「安全保障のための秘密保護」と「知る権利」の両立を図るために国連関係者等を含む70カ国以上の専門家によって作成された。2013年6月に南アフリカの都市ツワネで採択されたことから「ツワネ原則」と呼ばれる。
「日本弁護士連合会」の次のhpから全文が読めます。http://www.news-pj.net/pdf/2013/tsuwanegensoku.pdf