首相と閣僚は伊勢神宮参拝をしないでください

内閣総理大臣
岸田文雄様                       

 毎年、新年の仕事初めに首相や閣僚らが伊勢神宮に参拝し、近年では、その直後に伊勢神宮敷地内の神宮司庁において、首相が年頭の記者会見を行うことが継続されています。これらの行為は日本国政府と一宗教法人である伊勢神宮とが特別な関係にあることを顕示し、このような参拝は当然なものであると国民に印象づける行為です。これは、日本国憲法第20条の政教分離原則に反します。岸田政権は、こうした憲法違反の前例に倣うことなく、年頭の伊勢神宮参拝を行わないよう求めます。

 愛媛玉串料違憲訴訟において、最高裁大法廷は「県が靖国神社等に対して公金から玉串料等を奉納したことは、県が特定の宗教団体との間に特別のかかわり合いを持ったことを否定することができない。特定の宗教団体を特別に支援しており、特定の宗教への関心を呼び起こすものといわざるを得ない。憲法20条3項、89条に違反する」(1997年4月、要旨)と述べ、特定の宗教団体との関係を厳しく戒めています。この判決の法理は、国と特定の宗教団体との関係においても適用されるべきものです。

 伊勢神宮は、1869年の明治天皇の参拝から1945年の敗戦まで、国家神道の中心的存在でした。政府が宗教を利用し、国民の思想を統制した国家神道体制の負の歴史を背景に持つ宗教施設です。戦後、伊勢神宮は全国に8万といわれる神社を包括する宗教法人神社本庁の「本宗」に位置しています。そもそも日本国憲法の政教分離原則は、国家神道体制への大きな反省から生み出されたものです。にもかかわらず、政府と伊勢神宮とのこのような密着ぶりは、あたかも歴史の歯車を逆回転させ、現憲法下における国のあり方(国民主権や政教分離原則等を土台とした)を根底から損なうものとして容認することができません。

 翻って、私たちキリスト教会は戦前、ほとんどが「神社は宗教にあらず」という政府の強弁を鵜呑みにして、国家神道体制の下で戦争遂行に協力・加担し、神社参拝や宮城遥拝を行うなど、私たちの信じる唯一の神のみを礼拝することに背く罪を犯してしまっただけでなく、それに抵抗した国内外の忠実なキリスト教会や信者への迫害に手を貸すという罪を上塗りしてしまいました。私たち自身のこうしたことへの深い反省と同時に、国家神道体制下で自らの信仰や信念に忠実であろうとした他宗教や無宗教の人たちも含めた先人の信仰・信念に基づく厳しい闘いに思いを致し、これらの上に成り立った政教分離原則の厳格な遵守を訴え続けています。

 過去の歴史の過ちを直視することに対して、国の誇りを損なう自虐的史観と決めつける向きがありますが、私たちは唯一の神を愛し、隣人を愛し、それがゆえに国を愛する者として、真の反省無くして本当の意味での誇りは生まれないことを肝に銘じたいのです。民主主義を国是とする日本国の政治の責任を委ねられ、重責を担っておられる首相であればこそ、それにふさわしい賢明な判断をしていただきたいと心より願うものです。

2022年11月23日
日本長老教会大会会議2022



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